まだ読んでるライト・ヴァース関係。
とはいえ、ライト・ヴァース関係の本は前回読んだ二冊しかないので、アメリカの詩ってことで検索・予約しまして、色々借りてきました。
『アメリカ詩の世界 成立から現代まで』新倉 俊一/著 大修館書店
『荒野からうた声が聞こえる アメリカ詩学の本質と変貌』 渡辺 信二/著 朝文社
『世界名詩集大成 11 アメリカ』 福田 陸太郎/[ほか]訳 平凡社
『アメリカ名詩選 ワイド版岩波文庫』 亀井 俊介/編 岩波書店
『ロバート・フロスト詩集 愛と問い』 ロバート・フロスト/著 近代文芸社
『ロバート・フロストの詩 訳詩と評釈』 ロバート・フロスト/著 ニューカレントインターナショナル
『ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ詩集』ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ/著 国文社
『ウィリアムズ詩集』 現代の芸術双書 ウィリアムズ/著 思潮社
『パターソン』 ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ/著 思潮社
『カミングズ詩集』 海外詩文庫 カミングズ/著 思潮社
『小さなわたしさん 旺文社ジュニア図書館』 E.E.カミングズ/作 旺文社
『そとはただ春 E.E.カミングス/詩 Parco出版
興味のあるとこだけ拾い読みです。
読んで、初めて知ったのは、アメリカでは、詩を書くっていうのはかなり大変だったんだなということです。19世紀以前は、イギリス詩の下手な口真似が多く、それ以降は、イギリス詩からの無言の圧迫、劣等感を感じ続けながらの、「ヨーロッパをも含めた過去の巨大な遺産を前にして、それに挑み、それと対決しながら、そして多くの場合、詩自体の概念をさえあらためて問い直すといった根本的な反省を重ねながら、自分の世界を築き上げていく他はない。」※1という状況だったそうです。イギリスから見たら、アメリカ英語っていうのは野蛮に聞こえるらしいんですね。田舎者っぽいというか。それで、イギリス英語にあわせて詩を作っていたんだけど、いまひとつだったと。なので、自分の国独自の詩が欲しかったと。さらにアメリカ内部での見られ方で言えば、「詩はむしろ、不幸な変わり者の文学であって、そもそも『アメリカ人が詩を書くというのは、非アメリカ的行為を犯すことである。一歩わきへ寄って、中心から身を遠ざけることである』」※2だって。実際、イギリスに行っちゃったり、自ら命を絶っている詩人も数多い。
で、その反骨精神・独立心というものが、アメリカの詩にもたらしたものが、エドガー・アラン・ポー(詩を音楽性のある芸術だとした)や、ホイットマン(英雄でない、普通の人を詩に持ち込んだ、アメリカ最初の「民主主義詩人」とか自由詩の父とか言われる)や、ディキンソン(まったく世間に出ず、ダッシュや大文字の多用など、独自の世界を築いた)、エリオット(『荒地』で有名!ロマンや個性を否定)やパウンド(イマジズム詩の旗手であり、後のビート詩の基準となった人。『荒地』を推敲した人でもある)(←この二人はイギリスに行って活動してるけど)カミングズ、ウィリアムズ、スティーブンズ、ギンズバーグetc.といった新しい手法を次々と打ち立てた詩人たちです。
つっても知らない人には何のことやら。日本で言えば、芭蕉・正岡子規・塚本邦雄・北園克衛・吉岡実などの・・・それまでの詩の伝統を受け継ぎつつ壊しつつ新しいものを目指した、エポックメイキング的な人達だと思ってください。
で、ライト・ヴァースですが、『アメリカ詩の世界 成立から現代まで』という本を読んだんですが、こちら、アメリカの詩の歴史と、それに影響を受けまくった日本の詩の歴史と、アメリカ詩がざっくり紹介されているという親切な一冊です。ところがこの本にはライト・ヴァースの「ラ」の字も出てきません。1981年発行だから、著者が知らないってことはないでしょう。
「ん?」と思って考えるに、アメリカ詩の歴史ではライト・ヴァースというのはそういう分野や考え方がもとからあったわけではなく(アメリカ詩にあったのは、イマジズムとかビートとか)、軽めの詩のよさを分かってる人が、あまりにもイギリスやアメリカで無視されまくっているのを残念に思い、「いいのあるから、みんなもっと見て!」という気持ちでカテゴライズし、編纂という形で紹介したのが始まりなんじゃないかなーと思いました。オーデンという人が言うように、「『真面目な』詩人が軽い詩を書くことは、アメリカではバカにされているからだ。そして(中略)『愉しみのために』などと言おうものなら、聴衆がショックを受けることは、目に見えている」※3らしいから。
バカにしなくたって、いいじゃんねえ。
ほんとのところは、新旧の『オックスフォード版 ライト・ヴァース選』を編集したオーデンやエイミスに聞いてみないと分からないけど。
しかし、今現在は、アメリカでは大学で詩の講義もさかんだし、詩の雑誌もいっぱい出てるし、その雑誌が主催する詩の賞もいっぱいあるらしい。雑誌の経営はいまひとつながら、寄付を呼びかければどーんと寄付してくれる人もいるらしいし。詩集の発行は、雑誌で掲載された詩がたまったら、出版社に掛け合うらしい。それで何年も返事をまつ、というのがあっちのスタイルらしい。・・・らしいばっかりですが、こんな感じです。※4
さて、雑誌と言えば、ライト・ヴァースの書き手である(とはいえ本人にはそんな気はなかっただろうけど)ウィリアムズやスティーブンズやムアは『アザーズ』という雑誌に投稿して、認められたらしい。『ダイヤル』は1920年以来、アメリカで最も権威ある詩誌となり、エリオットやカミングズやムアなどの詩人に賞をあたえたそうです。えらい!
かれらは「自由詩のだらしなさに批判的であり、」「安易な比喩化や文学的アリュージョンを排除し、」てきたけれど、「そのために詩を象徴として捉える立場からは認められず、ながらくエリオットや詩壇の正統派に無視されてきました。」※5
そうです。
無視しなくても、いいじゃんねえ。とはいえ、カミングズには性犯罪描写的な詩もあり、真面目な人たちが怒り出すのも分かる気もしますが。(詳しくは、静岡福祉大学紀要 第2号(2006年1月)向山 守著「日本語のカミングズ」
http://www.suw.ac.jp/lib/gakuho/file/0004_9_67-74.pdf)
ライト・ヴァースについては、だいたい分かったのでこのへんで終わることにしますが、現代詩手帖の「ライト・ヴァース特集」で、カミングズの訳者である藤富保雄さんの文章が一番良いなと思ったので抜粋いたします。
「笑いと悲しさは顔にあらわれないかもしれない。しかしこの二つの感情がライト・ヴァースにかくされていることは見逃せないだろう。ぼくはライト・ヴァースなんていう英語はあんまり好きではない。(中略)「軽業詩」ということになるだろうか。ぼくの手のうちを少し公開するならば、
* 笑われても、こんな楽しい自分がいる。
* 笑っても、こんなつまらない自分しかいない。
* 淋しさを耐える自分に人は知らん顔をしている。
詩を作るとき、意識したらあまりよい作はできないのは何の場合でも同じであるが、まあ、こんな具合である。」※6
軽業師には、確かに、笑いと哀愁がある。(軽々とやってのけるので、観客にはあまり分からない高い技術力も)
そう、アメリカのライト・ヴァースの一部には、イギリス正統お上品詩に歯を食いしばって対抗し、アメリカ内部でもバカにされ無視されてきたのに耐え、という血と汗と涙がにじんでるってことです。そういう意味では、日本でわざわざ自分の作品を「ライト・ヴァース」っていう人には、ちゃんと意味分かってるのかな?と言いたくなっちゃいますね。前回紹介しましたウィリアムズの「あかいておしぐるま」だって、詩としては「イマジズム」っていう新しい、正統派とは違う方法で書いてある、覚悟のある詩・・・ヘビーじゃん。ということです。(前回、軽い詩の代表みたいに引用しちゃってごめんね!)
ところで、今回アメリカの詩の本を色々借りて思ったのは、日本語訳だけっていうのが多いなーってことです。日本語訳だけだと、言葉が古くなっちゃうと分からないところがあるし、まあ訳の上手さにうなるってこともありますが、小文字と大文字の使い分けのところなどは日本語表記では上手く表せないでしょう。そのへん、訳者の方はどう思ってるのかなーって思って。原文も載せると分厚くなっちゃうから?二冊組ってことはできないのかな???『アメリカ名詩選 ワイド版岩波文庫』と『アメリカ詩の世界 成立から現代まで』と『ロバート・フロスト詩集 愛と問い』には原文も載っていてよかったです。私は英語力ないですけど。 あとあと、カミングズの詩集が欲しいなーと思ってアマゾンで見たら、売り切れだった。十年くらい前の本がもう絶版てなんじゃそら。今、日本で読めるのはこの一冊くらいしかないらしいのにねえ。(『小さなわたしさん』『そとはただ春』は絵本だった)あっでもねえ、今年7月にヤリタミサコ・向山守編の『カミングズの詩を遊ぶ―E.E.カミングズ詩集』という本が出てるらしいんです。早速図書館に注文します!(買えよ)
あとあと、読んだ中で、ロバート・フロストってどんだけ韻を踏みまくるの!?とか、フロストのあの詩にこんな泣けるエピソードが!とか、カミングズってなんでこんなにかわいいの!?とか、スティーブンズって気になるけどよく分からないけど気になるとか、ウィリアムズの他の短詩もいいねえ、とか、詩手帖誌上で北村太郎が丸谷才一のライト・ヴァース観に文句いいまくりで面白すぎ、とか色々あったんですが、また何かの機会に紹介できたらなあと思います。
終わりです。お付き合いありがとうございました。
※1※2『アメリカ名詩選 ワイド版岩波文庫』p346
※3『現代詩手帖 特集ライト・ヴァース』アメリカのライト・ヴァース 金関寿夫
※4『荒野からうた声が聞こえる アメリカ詩学の本質と変貌』10アメリカ詩の行方:先頭に立つ詩人たち を参照しました
※5『アメリカ詩の世界 成立から現代まで』p32
※6『現代詩手帖 特集ライト・ヴァース』詩の光沢 藤富保雄