水のテーゼ
umineko

久しぶりに区民プールに行く。全然気づかなかったが、この街にはあちこちにプールがあるんだよね。そんなにニーズがあるんかしら。プール。

水泳にはあまりいい思い出はない。中学の授業ではおぼれかけた。高校の遠泳でも遭難寸前だった。そこまで好き、といった類いのものではない。水が、基本的に駄目なのだ。身構える。すると水は他人になる。

25メートルを一往復して、なんとかおぼれずに行けることがわかってほっとする。(じゃあちょっと、タイムとか意識しちゃう?)こうやってすぐ調子に乗るのが私の真骨頂。

すると。とたんに水が意地悪になる。スピードを出したいと、私はもがく。水は壁になり、私をあざ笑う。
水の上を、滑るように。友人があきれて忠告する。あせっちゃだめだよ。ストロークとストローク。その間をゆったりと。うん。そうだね。やってみる。

最初の数ストロークはいいのだ。だけど、すぐにあわあわして、あわれな柴犬みたいになってしまう。何かが違うんだよね。それがなんだかわからない。

あなたをつかもうとして。手を伸ばして指に触れた。あなたがやさしくないことを、私は瞬時に理解する。それでも。

あなたを追いかけた、あの夏の日のように。
私は泳ぐ。水は私を、いつか許してくれるだろうか。

あるいは、夏のあなたのように。
やさしいふりで遠ざかる。
 
 
 



自由詩 水のテーゼ Copyright umineko 2010-08-03 06:07:49
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