7月、八月
salco

美しい7月

太陽はまた新しく耀いて
波涛を映して瑞々しく
熱した白いアスファルトの上を娘たちは
日一日と灼けて
ときめきに図太くなって行く
楽しい事なら何でも起こる
碧いカレンダーの中で
さざめきながら、
美しい7月

まぶしさに射抜かれて
日傘に隠れる亡霊達の喪失と羨望を
腕で跳ね返しながら未来へ投げ返す
ライムの中の戯れの夏
翳は未だ
薄紫の揺らめきを曳いてちらちらと踊っており
勇壮な夏空に組み敷かれて沈黙する時を
知らぬげだ

物憂いサイレンの鳴り響く8月
B‐29の
黒い蝿ほどの羽音が薄い雲間をよぎると
少年の堅い横顔も少女のすべらかな額も赤ん坊の旨寝も
全てが記憶の黒点に殲滅する一瞬のあした
病床の祖父が粥を啜っていた美しい7月
懐かしい母のふっくりした手が髪を編んでくれたあさ
筋ばった項の父が、弁当包を持って省線脇の角を曲る
美しい7月



八月

死んだような昼下がり
幼稚園から帰った近所の
利かん気坊主の声だけが
南の空にむくむく聳える白い入道雲に跳ね返る
唯一の水しぶきである
八月は
子供時代の思い出の王国
あお青い栄華に満ちて汗の粒ほど数え切れない
光の粒子ほど捉まえ切れない速力の
笑声の距離ほどに

大人達と老人はカーテンを引いた冷気の中
小さな小さな右と左のスピーカーの間で
人類のレクイエムを聴いている、八月だ


自由詩 7月、八月 Copyright salco 2010-08-01 15:03:56
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