ブリキ電車
……とある蛙
太った女の子が座る
通勤電車の車両接続部
近くのシルバーシート
彼女の平面図は四角柱。
正方形二枚で蓋をした
立方体に近い六面体
車内温度は高い
弱冷車両だが、人の数は多い
円錐の叔母さんが叫ぶ
あんたその席に座っていいと思っているの
近くには特に老人もいない。
かわいそうに立方体に近い六面体は
赭ら顔で立ち上がり
僕の横の吊り革に掴まる
立方体に近い六面体は
直ぐに携帯を鞄からとりだし
めまぐるしい早さで
親指でキイを叩く
僕は球体なのに
汗が吹き出し
急制動の車内を転がるわけもなく
滑走して行くのだった。
六面体の熱は満遍なく車内の温暖化を進める。
転がらずに滑っていた僕は
車両の繋ぎ目のドアにぶち当たって
それからしばらくして
次の駅構内のベンチで
びしょ濡れで横たわっていた。