消える
A道化




遠いらしい鳥の符を数えようとしたら
鳥は止み
近くで鳴った羽虫の曲線をなぞろうとしたら
羽虫も消え
でも 静かな夕刻のどこか どこかにいるのだと思う


消える


いつの間にか音も無く 耳も消えた
綿毛が含んでいた黄色い昼から
青黒い痣が広がって夜になって暗くなって
目も消えた
でも ここにいるのだと思う


だってわたしたちに
また ちゃんと夏が来たよ夏が来てここにいるよ 嘘じゃないはず
ちゃんと夜が来て幾つも幾つも夜が来てここにいるよ そうだろ
あなたはどこかにいてわたしはここにいる 嘘じゃない そうだろ
ここ が消えたもののかたちで満ちているという秘密を知っている


けれど
あなた
ここってどこ?
どこかって どこ?


消えている


消えたままあなたのかたちを思い出そうとして
消えた手の甲を噛んだら
あなたのかたちは消えたまま わたしだけが現われてしまった
泣きながら歯を離したら痛みは引いてゆき
また わたしも消える






2010.7.27


自由詩 消える Copyright A道化 2010-07-27 19:04:10
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