「路傍のいのち」
ベンジャミン

小さいものだから小さいと思うことは
なんて簡単なことなのだろう

車で仔猫をひいた

ひく前に
「ああ ひいてしまう」と、思う間があった
思ったとおり

何とも言えない音が伝わってきて
バックミラーに動かない仔猫が映っていた

最初に考えたことは
「猫が横切る方向と反対にハンドルをきれば良かった」だ
「猫は戻れないから反対にハンドルをきれば避けられた」だ
次に考えたことは
「自分はどれくらいの力でブレーキを踏んだのか」だ
「たとえどんなに力を込めても間に合わなかった」だ

そのまま逃げた

まだ生きているか確かめもせずに
いや、間違いなく生きてはいないと

夜になってから
その場所に行って
本心では、見つけたくもなかった
そのからだを道端で見た
片方の目だけが開いていた

その視線が見つめていたのは
確かに自分であることを
語ることはないけれど

小さく路傍の草と土に埋もれて
同じくらい小さな路傍の、このいのちを

ただ立ち尽くしているのは
そんな、自分という肉の塊であることを

仔猫はじっと見つめていた




自由詩 「路傍のいのち」 Copyright ベンジャミン 2010-07-27 01:01:13
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