ボヘミアン
ホロウ・シカエルボク




脳天から血液を吹き上げる貨物列車の
積荷のひとつに俺は忍び込んだが
激しい振動に揺さぶられ続けて気を失った
振動と鈍痛のふたつの感触が交錯しながら
脳下垂体に直接描きつけられた夢の成りたちは
俺が一番忌嫌う祭のような逃場のない暢気だった
木の実になったような者たちの歌
木の実になったような者たちの声
夢から来る震えに歯の根を鳴らしながら
目覚めてすぐに停車した駅で俺は列車を抜け出した
そして明かりの当たらないところへ身を潜めた
貨物列車が行ってしまうと欺瞞的な
しかし確実な静寂が濡れ布巾のようにそこらにかぶさり
俺は様々なものが寄り集まって凝固した
いたたまれなさみたいなものに捕われてため息をついた
真っ暗な空、真っ暗な空に、無数の
銀色の穴ぼこが空いていた
あまりにも遠すぎて死を受け止めてしまうやつら
ポケットの小瓶からウィスキーを一口あおって
そいつらの視線をあまり感じないようにした
ゆっくりと駅を離れ
ささやかに舗装の後を残す道路の上を
あてもなく歩いた
見知らぬ土地で居住区に出会いたいなら
とにかく駅に背中を剥けることだと
いつか旅人が口にしていた言葉
こんな風にそれを試すことになるとは思ってもいなかったけれど
オペラ歌手がウォーミングアップをしているみたいな
緩やかだが厚みのある風が
押し戻すみたいに吹きつけていた
砂埃はすぐにくちびるをざらつかせ
明かりひとつ見えない景色は
すぐに俺を徒労感で一杯にさせた
誰か車を走らせてここまで来ないだろうか
どうしようもない用事でドライブをして
そしてそのまま帰らなければならないようなやつが
車を走らせてここまでやって来ないだろうか?
まだ歩けなくなるまでには幾分余裕があったが
俺はすべての力を失くしたみたいにそこにしゃがみこんだ
物陰を探してどこかで眠ろうか、そんな考えも頭をよぎったが
ただただだだっ広くて
ベッドの代わりをしてくれそうなものはありそうもなかった
誰かこの場所の名前を俺に教えてくれ
誰かこの場所の名前を俺に教えてくれよ
俺は小さなリュックからチョコレートを出して
包み紙をほどいて食った
何か出来るような気がしてきたが、同時に
そんなもの単なる思い込みに過ぎないということも判っていた
なので俺はまた歩いた
道が上りにならないかと思った
道の先を見下ろせるような高いところに立てば
そのあとどのくらい歩けばいいのか見当も付けられるだろうと思ったからだ
けれども道はひたすら平坦で、そして



この土地についた名前すらまだ知らなかった




自由詩 ボヘミアン Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-07-26 22:00:38
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