めぐり はじまり
木立 悟






雨を収めた油燈を持ち
光の先を追っている
呼吸の近く 銀は増し
振り向くたびに水は映え
標と標の会話をふちどる


沈む沈む
水は遠く 地も遠い
話しながら髪留めを解き
さらに闇へ駆け
闇へはばたく


押す力が弱く
ためらいます
霧の上からとどきます
しくしくと
音の指のように


伝えたくないのでしょうか
水は激しく立ちはだかり
耳の後ろに体を曲げます
新たな小さな
入口になります


声に声が生え
鳥と呼ばれる
置き去りも そうではないものも
連れ去ってゆく
道と道 光の型紙


小さなものが
かろうじてうまくゆく日を
大きなものは常に妨げ
金に緑の線は増す
まぶたの履歴の履歴に震える


同じ家が並ぶ
夜が等しく積もる
違いは光
高度差の痛み
なだらかな 軋み


曲がり角には曲がり角の絵
浪の壁に洗われる景
路はつづき 行方は見えない
帰途には冬
指の間の冬


解いてはいけないものを解いて
羽で在ることを隠しました
指先の水が手首に散り
夜を急がせ
眠りを早め


言い聞かせる
小さな武器に
冬と同じ眼に
弔いのない
小さな庭に


永い永い還り径
知ることを知るほど細くなり
境を歩み 境にうたう
常に常に
接する光


夜を燻らす
虹の一片
白い渦に
くりかえし
冠は降り 冠は降る


何かが隠れたままの静けさ
遠くで遠くがまたたくなかを
はじまりはまたはじまってゆく
誰もおらず 祝福もなく
見たこともない故郷へ向かう


苦しみの水が一房おわり
ひとりでひとりの祝い事をし
夜の色が変わるのを聴く
はじまりを負う背の
贖いを聴く






























自由詩 めぐり はじまり Copyright 木立 悟 2010-07-25 16:15:49
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