かぶとむし
A道化


ずっと知っている
甘酸っぱい腐葉土に降り立てば
ほら、夏に焼け焦げた体の
もうすぐそこへ含まれてゆく予感


夏はひとつの心臓として脈打っていた
どくどく、樹液の行き渡ってゆく空気へ舌を出した
血やお腹も甘味と熱を帯びてゆき
焼きたてのお菓子みたいだったわたしを
あなたは
知った


あなたが知った
あなたが知った、あなたが知った、
うれしくて薄皮が音を立てて震え
今わたしはぶるぶる浮き上がる


いかなくちゃ


さあ
わたしはわたしを知ってくれた男よりも
いちにち、ながく生きる
さっき彼を含み始めた腐葉土にこのお腹を空け
生まれて初めてわたしは
わたしたちのよろこばしい卵を産まねばならぬのだ




20100721



自由詩 かぶとむし Copyright A道化 2010-07-21 10:52:09
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