鉄と緑
木立 悟




棄てられた道のざわめき
野に沈んだ鉄の轍が
震えるたびに運び来るもの
蒼と紫の光が軋み
激しく小さな 
数え切れない夜になり
雲を鳴らす音とともに
草の波をつくりだす


野の外に立ち
煙る地を往き
道は途切れる
かつて此処を去ったものたちの足跡に
羽は降りつもる


乗るもののない列車と
動くことのない列車が擦れちがう
窓に点滅する風景を
流れ落ちる光の滴を見つめながら
夜の雨を負い
夜の雨を聴く


波の上のふたつの空を
波の内のひとつの空を
幾つかの嵐が過ぎたあとも
野の外にひろがる野から
遠い水の音が聞こえる
繰り返し打ち寄せる色を浴び
泥と光と錆にまみれて
熱さと冷たさの翳りのなかに
わたしはひとり
鉄のように立っている





自由詩 鉄と緑 Copyright 木立 悟 2003-10-09 09:02:34
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