鉄と緑
木立 悟
棄てられた道のざわめき
野に沈んだ鉄の轍が
震えるたびに運び来るもの
蒼と紫の光が軋み
激しく小さな
数え切れない夜になり
雲を鳴らす音とともに
草の波をつくりだす
野の外に立ち
煙る地を往き
道は途切れる
かつて此処を去ったものたちの足跡に
羽は降りつもる
乗るもののない列車と
動くことのない列車が擦れちがう
窓に点滅する風景を
流れ落ちる光の滴を見つめながら
夜の雨を負い
夜の雨を聴く
波の上のふたつの空を
波の内のひとつの空を
幾つかの嵐が過ぎたあとも
野の外にひろがる野から
遠い水の音が聞こえる
繰り返し打ち寄せる色を浴び
泥と光と錆にまみれて
熱さと冷たさの翳りのなかに
わたしはひとり
鉄のように立っている