夏が満ちる
橘あまね

瑠璃色 空がはぜる
祈る子の贖罪がおわって
世界に太陽を取り戻した


水面に満ち足りて
みなぎる光を
トンボたちが拾っていく
きらめいて
またふりまいて
運びきれない

蘇った陽炎に
蜘蛛がもう一度罠を仕掛ける

捕らわれてしまいたい
この熱と光の氾濫に
呼吸のための動力をぜんぶ受け渡してしまいたい

知らない鳥の声が澄みきって射抜く
なにもかもは架空の仮初め
儀式の終了を待っている

ハトのひと群れ
ベンチに寄り添う恋人
釣り糸を垂れる人
へたくそなギターと巧みすぎるハーモニカ
やがて風が動きだすとき
みんな夏に喰われてしまう
真夏を合成するための栄養になる


見届けなくては
夏の完成を
熱と光とが溶けあって
いくのを

気づかずに帰り道を帰りながら
瑠璃色がはぜて

夏が満ちるよ


自由詩 夏が満ちる Copyright 橘あまね 2010-07-17 18:24:19
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