たからか
からふ


 しがらみ、ほだすから漕ぐ、漕ぐ、届かないもの、失ったもの、に馳せる隙
間、追い出し、持たず、右足、左足、込めるたびにこぼれていく、ビル群、ア
パート、果樹園が、ひしゃげていく、流線を描いて、わたし、忘れてしまって、
ものものが、自ら、まどろみを選んだかのように、しろくなる、その、眩しさ
に、またたく、間もなく、再度、右足、左足、やがて、ペダルさえも、忘れて
しまえそう、なのに、こびりつくのは、顔、あなたの、うさんくさい、笑顔、
うるさいんだよ、はなれない、のに、とどかないの、なら、右足、左足、上り
坂ばかりを、選んで、いる、藍色に、近づいて、みたくて、追いかけたくて、
どうしても、選んで、しまう、けれど、どこにも、行けなくなって、気の抜け
た、キリンレモン、飲み干す、舌の奥に、かすかに残る、炭酸、消えていく、
たちまち、下る、下る、下る、涙が、通り過ぎてゆく、わたし、楽しいのかし
ら、声をあげて、笑う、笑って、しまう、たからかに響く、甲高いファの音、
ファの音、ファの音、たからかに。


自由詩 たからか Copyright からふ 2010-07-13 16:11:10
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