文化刺繍
鵜飼千代子

ぴん と張った
木枠の布に
ぷすりぷすり

針を刺す
 
あなたが
毛立て器で撫でる糸面は
決して
綺麗にぼかされることは無く
千切れた
刺繍糸と
毛羽立つ 布目が
次々と生み出されて行く
               
我が侭にならぬ腹立たしさに
脅えるかのように
やり直しのきく
枠さえ
叩き割り
 
今日も 
快楽の海へと
マストを称げる
 
散らかされた
生まれるはずであった
礎は
わたしの前に
散々に置き去りに
されて
 
使える部分と
再生不可能なものへと
選り分けられて行く
 
スイッチバックの
あなたの行路は
道を踏み外す事は無く
永遠に
続いて行く
             


初出 Blue Water 2000.04.21
詩集 ブルーウォーター 所収


自由詩 文化刺繍 Copyright 鵜飼千代子 2010-07-12 18:39:13
notebook Home