Weeping Sorrow
綾瀬たかし

 
 
 
【Weeping Sorrow】



 殺し合うのは何故? 誰かを守りたいから。 ただそれだけ。
 殺される者にも守るべき大切な何かがあるのに
 そんな思いやる気持ちさえ忘れてしまった心は
 躊躇うことすらせず罪もない無抵抗な者達へと銃口を向ける。

 知りたくもない現実に声も出せず、ただ立ち竦み
 亡骸を抱える母の叫びは天の主を憎むほど切なく
 けれども銃声に掻き消されて 虚しく空を裂いた。

 迷いは引金に掛かる指先を震わせ
 やがて心を蝕み
 その手で自らの躯体を血に染める。

 薄れゆく意識の中で、霞む瞳で空を見つめていた。
 浮かぶのは まだ幼かった、あの日。
 あの頃はこんな日が来るなんて思いもしなかったはずなのに
 どうしてこんな事になってしまったのだろう
 いつからこの心は変わってしまったのだろう
 だけどいまさら誰も許してはくれないだろう
 きっと誰かを守りたかったんだ。

 父や、母や、人生で出逢った大切な人、愛する人、

 すべてに ごめんなさい。

 今度は争いの無い
 憎しみさえも無い
 そんな世界があるなら もっと優しく生まれて来ますように。
 
 
 


自由詩 Weeping Sorrow Copyright 綾瀬たかし 2010-07-11 22:51:24
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