ひとつ めぐり Ⅲ
木立 悟
灰が灰に手を回し
車輪のように夜になる
波が生まれ波を追う
鏡の裏に降りつもる
見えない星を聴いている
海を指す道
影の筆
水わたる光
夜を夜へ運ぶ手のひら
標をひとつ響かせる
平らに平らに声は消え
暮れは暮れに流される
よろこびが蒼を横ぎり
影を横ぎる
ただよろこびのまま駆ける
塗りかけの夜がにおい
窓の隙間の肌をふさぐ
声に降る声
歩道橋から
星の胎から
至り 到き 響く
乾き また
濡れてゆく
近づこうとしない光
今は居ない友への文
火の橋は揺れ
火の橋は増え
水を染め
心を流す
たどりつけない季節を流す
薄い夜があり
風の道がある
窓はみな閉じ
午後に似た色
さらに薄まり 雨を迎える
冷たいものも
熱いものも
指の林をすぎてゆく
傾きや紙魚や
遊びたち 紡ぎたち
かどわかし
めくらまし
折り目
空の下 夜の下
声ではなく 夜をめざし
ところどころ欠け
よろこび
おいてけぼりの月を浴び
ゆうるりと歩み そこから
ゆうるりと歩み
目には見えず
指には見える粒の灯が
うなじに鎖骨につもりゆく
黒く丸く
指は赤く
曇りですか
窓には
ひとこともありませんか
常に鏡のうしろの鏡
何も映さずかがやく笑みには
星座が星座に吐き出され
新たな名を得て去ってゆく
おまえが自身に封じたもの
誰かと共に夜をゆく
見えるはずもなく見える横顔
雨の前で回り 風を拾う
今日は終わり
また終わりなく
手のひらに滴に分かれゆく
手のひらに滴に分かれゆく