逆上がり
殿岡秀秋

小学校の体育の時間に
逆上がりができなかった
隣りの席の女の子が休み時間に
鉄棒をしにいこうと誘ってくれた
ぼくらは二人で
校庭の隅に立つ鉄棒に向う
鉄棒は低いのから
順番に高くなっていく
ぼくら二年生は一番低いものから
二番目の鉄棒につかまった

ふたり並んで鉄棒をにぎった
足をあげるが
空中でとまって落ちてしまう

休み時間のたびに
ふたりで鉄棒をした
ふりあげた腿が鉄棒にふれるようになる

やがて鉄棒に腿のつけねが
からむようになる
もしかして
もっと勢いよくふりあげたら
逆上がりができるのではないか

太腿のつけねが
鉄棒にのるには
地面を勢いよく
蹴ればいいんだ

地面をけって
いきおいをつけると
からだが鉄棒を軸に
一回転して
鉄棒の上で
両手で自分を支えて
浮いていた
とても無理だと思っていたことが
ついにできた

不思議だ
地上を離れている
いったん逆さにみえた空が
ひっくりかえって
頭のすぐ上に雲がのる
少女も一回転して
鉄棒の上で
顔を見合わせて微笑む

いっしょにやってくれる
少女がいたから
校庭を蹴って
地上を離れることができた

少女とぼくの気持ちが
校庭の隅の風のように渦をまいて
薄いぼくのこころを
浮き上がらせてくれた


自由詩 逆上がり Copyright 殿岡秀秋 2010-07-01 06:20:44
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