思い出す雨雲の朧月
板谷みきょう

あたし一生、結婚なんてしないわ。

三日月に乗って夜を旅する
風の冷たさ温かさ
満月なんかじゃダメなのさ



10円玉99枚を用意して
告白の為にボクは
電話ボックスを探してた



あの娘が申し出を断るはずがない



「受け容れられなければ
電話に出ないで下さい。」
そう恋文に
電話をする日時を添えて
書き記しておいたのは
根拠のない自信と
裏付けのない信念が
揺らぐことが無かったからだ

そして約束の閏年の夜
21時に電話を掛けた

彼女の母親が電話口に出た

今、娘は出掛けていて家には居ないのよ。



月夜の駆け落ちに夢破れ
ポケットには98枚の10円玉が
重い気分をいっそう重くしていた



四半世紀以上前のことだ


自由詩 思い出す雨雲の朧月 Copyright 板谷みきょう 2010-06-30 22:26:45
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