逃走
三田九郎

田んぼを抜けて向かってくる

郵便配達の排気音

二階の窓から眺めてた

少年の胸の高鳴り

昨日、アルバムを三冊捨てた

振り返るには濃密すぎて

淡すぎる過去

見知らぬ人からの便りが

いつか届く気がしてた

言い訳するのが上手だね

先生はごまかせても

世界は何も変わらないよ

言葉に操られているのは

本当は君なんだ

黒板に向かって

言ったよね、先生

今日みたいに

やたらと雨が降ってて

僕は勝ったと思ってた

土の跳ねる田んぼ道

水たまりを確認しながら

間違ってない

そう言い聞かせてた

泥だらけの僕を

母は笑って出迎えたけど

先生の背中が痛くて

勝利の味は苦かった

あの頃

僕は何から逃げて

どんな便りを待っていたんだろう

電車に傘忘れちゃった

先生 今、

この僕をなんて言うだろうね

田んぼのない街で

雨に打たれて

夜陰に紛れて

舌打ちした


自由詩 逃走 Copyright 三田九郎 2010-06-29 22:16:19
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