日曜の午前三時に
ホロウ・シカエルボク




日曜の
午前三時


手足のない男が
金網に入り
手足のある男と
2ラウンドを戦う動画を見る


手足のない男は
手足があるときは
アマレスの
選手だったらしい
右の肩甲骨に
なにかの形の
刺青が彫ってある
その肩から
肘の手前までの
長さの
腕があり
骨盤から
同じくらいの
長さの
脚がある


セコンドに背負われて現れ
Tシャツを脱ぎ
金網に入る
軽く
身体を揺さぶる
手足のある男は
小さく
ステップを踏んでいる


俺は
どうして
この男たちは
金網に
入るのだろうと
考える
そして
どういうふうに
勝とうと
するのかと


ゴングが鳴る


手足のない男は
跳ねながら
まさに
地を這うタックルで
手足のある男を
寝かそうとする
倒せば勝ち
という
ルールかもしれない
手足のある男は
それをさばきながら
軽いジャブで
けん制していく
(手足のない男の動きは初めから見切られている)


タックルに入る
タックルに入る
手足のない男が
手足のある男を
リングに
倒そうとして
観客は
熱狂している
そこには
どんな遠慮もなく
ただの
男と男の闘いに
声を
上げている
2ラウンド
手足のない男が
スピードを上げる
身体全部で
手足のある男を
転がそうとする
手足のある男は
ジャブのスピードを
少し
早くする
手足のない男が
ブルース・リーみたいに
短い腕の先端で
鼻先をこする


おそらくは
エキジビジョンだろう
動画は
2ラウンド終了の
ゴングまでで
結果は
判らない


俺は
このことについて
見たまま以上のことは
なにも
語りたくない
タックルに入る
タックルに入る
手足のない男が
手足のある男に


どんな風景だろう
向かっていくときは
向かってくるものに
圧倒的なリーチで
パンチを
浴びせる時は


俺は
睡魔をこらえながら
この詩を
どんなふうに終わらせれば
彼らに勝てるか考える
だけど
欠伸は
唇を突きぬけて
だらしない音を立てる


手足のない男が
手足のある男と
金網に入り
2ラウンドを戦う動画を見た
日曜の
午前三時
俺は




自由詩 日曜の午前三時に Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-06-27 03:42:57
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