食傷
salco

 泣く女

泣く女は階段の下で
セーターを編んでいる
赤い毛糸と緑の毛糸で

 哀れな女

シンデレラは靴の片方をなくした
シンデレラは靴の片方を探している
シンデレラは義足の片足を引きずって

 手

私の右手を人は嫌がる
頬に触れると恋人は顔をそむけ
抱かれて赤ん坊は泣き出す
義手の重苦しく冷たい感触を嫌がり怯えて
私の手は誰も抱く事が出来ない

 犬

私は昨日まで自分は
人間だと、それもひとかどの人間だと
思っていたが実は犬だ
顔色を窺い「はい」を連発し
腰低く尾底骨の先にある尾を振って
人に頭を撫でられるのを嬉しくさえ思う

 某月某日の雑感

夜中の1時を回っても、私の鳩は鳴かない
そうだ、あの人は起きはしない
古女房の体臭でも嗅ぎながら
イビキでもかいているんだろう
所帯臭い男は嫌いだ
押し入れにモモヒキ

 辞令

君は考える頭は持っているが
夢見る神経細胞は持っていない

君は夢ばかりで
思考の深まりは一向窺えない

凡そ寿司ほど自己欺瞞的食品は無い
素っ裸のオートクチュール

 わたし

例へば私は鉄人だ
鉄仮面の下も鉄面皮
「窓を開けてくれ」
さうしたら私は魂を飛ばしたい
無害な野原へと、風船のやうに
錆びた鋼鉄の中で腐つて行く
かはいさうな私の心臓
私の金魚

 信仰

足の裏はドラマティックだ
半透明の側腹に
沢山の血管が透けて見えるから
サンチアゴ・エル・グランデ

 祈り

花が咲きますように
咲きますように 咲きますように
私は通貨制度の無い国へ行きたい
それか、ヘビクイワシになりたい

 夏の食卓(土曜日)

ヴァギナの奏でる変ロ長調
蝿取りペニスの離れ業
バッハの「音楽の捧げもの」を聴いている
皿の上の油染んだコロッケ
バッハの「平均律クラヴィーア曲集」を聴いている
ステテコ姿の死んだおっさん


自由詩 食傷 Copyright salco 2010-06-26 10:58:21縦
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