六月の声は
小池房枝

コスモスといえば秋風を思うだろう?初夏には咲いて揺れ始めている

ワスレグサ忘れていたい思い出があること思い出させないでよ

昨日見た四つ葉は今日はもう虫に喰われてとうに虫のものでした

嘴と皿と甲羅と水かきで雨と緑を!河童ラッパー

先月のアサガオ今頃芽を出した。すなまい私が埋めすぎたんだね
 
草むしりされる草ほど根に土を抱きしめミミズを飼っているらし

貝の火はオパールだったか知れないね。スズランがホモイおいしそうだよ
 
音だけを盗ってゆく人 音だけを残してゆく人 風鈴泥棒

水は水の色を収めてただ空を映す夕刻みかん色の川

パパラチア サファイア ルビー コランダム
コーンフラワーブルーが揺れてる

 
水無月の水すべて青き紫陽花の青にそそがれ青にかくれる

あぁ海が青いね赤潮でてないね人出はすごいね何処へ行こうか

雨上がり夜の空気は新しく香りたててる薔薇の匂いだ

玲瓏と聞けば水素のりんごです。違う詩を百、書いてみたいな

三葉虫、二尾の化石に添えてみたい「仲良きことは美しきかな」

ぴかぴかの直角貝の卓袱台を、買う人はつまり何にするのだ
 
目の前にひらりと散った瞬間の真紅の花びら手のひらに拾う
 
シリアルに牛乳つぐ時かしゃらんとサンゴに寄せる波の音がした
 
真っ白なセイルを旋回させながら香りをひらく八重のくちなし
 
ひとの手になるユリのその真白さに南の島の自生地を思う


雨の日にヤマネがポツリとつぶやいた
「この雨なかなかやまねーなー」って

カラスウリ真っ白な触手ふるわせて織り始められた夜絡めとって

見るからに巣立ったばかりのツバメたち電線の座り心地もむずかし
 
垂直に滑空しながら落ちてくる雨が見ている世界を見たいな
 
降る星は星ではなくて宇宙塵 空をこすって燃え上がるマッチ
 
こんびにで短冊さらさら笹の葉は揺れていたのか売られていたのか

爪先で通せんぼするよダンゴムシ駅のホームをどこへと向かう

すっぽんが増えててうれしい川上の図書館までのラインセンサス

梅雨に入るや否やの晴れ間にオジギソウほどの小さなネムの初花

六月のどの手が夏至の砂時計ことんと返す昼から夜へと


万物に触れてゆく手はしなやかで白くてどこか汐の香がする

巣立ちびな子スズメ口からはみ出てる緑色のもの何とかしてくれ

地下深く遠来からの素粒子の青い光を湖に待つ

風立ちぬ香りも立ちぬ梔子と薔薇とバジルとミントのベランダ

その瞬間、風を鎮めて家々に風鈴配り風鈴を配る

雨傘は鼓膜いつでも一人ずつそれぞれの傘に違う雨音

ほたるぶくろ咲いたね今ごろ飛ぶほうのほたるもどこかで飛んでいようね
 
ベランダの窓がとんとん叩かれる。洗濯物かな風かなお入り

ねじ花よいきなり咲いたね居たんだね根菌もずっと一緒だったの?

瞬間を咲き継ぐ薔薇の花びらは南無阿弥陀仏なんまいだろう


フィボナッチゼロから螺旋を幾重にも重ねて溢れる深紅の花びら

柳絮かなそれとも何かのタンポポか朝日と風を舞い渡るもの

夕方の三日月今日も細くって昨日とおんなじ姿に思える
 
夜も咲いているのね昼咲き月見草 咲いたら散るまで咲いてるんだね

皿ならばかしゃんと割れよう沙羅の花つばきの風情でほたりと落ちてる

まだ咲いたばかりで既に満開の合歓いろあわくそよいでいました

駅のホームをミノムシが渡る何処へか行こうとしてかミノムシが渡る

ツユクサの青さ見るたび目が覚める気がする何から目覚めるんだろ

スーパーの駐車場から立ち話する声 雨はあがったらしいな

見たことのない淡い色の鳥がいた。夕日を浴びたムクドリだった。


短歌 六月の声は Copyright 小池房枝 2010-06-20 20:54:14
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