満ち足りている潮
千波 一也


ひとは
潮の途中に
なにを聴くというのだろう

聴くという言葉は
はなはだ都合がよくて
かげかたちが整えば
それは素敵な
嘘になる

耳を聴く耳は
どこにあるだろうか
問うよりもまず
見えていないことが見えてしまっているのだと
勇気を風に
はなせばいいのに


満ち足りて、なお
満ち足りていきたくはないふりをする
赤子のような
ふしぎな
連鎖

それにあらがう
火がやさしいかぎり
海は
果てなく
海をひそめる





自由詩 満ち足りている潮 Copyright 千波 一也 2010-06-13 08:43:28
notebook Home 戻る