散歩
恭二

犬と暮らした。
名前を毛玉という。
毛玉は足が短い。
散歩に行っても、
僕について来るのが大変そうだ。

線路脇の坂を走る時も、
口の中に本当に収まっていたのかと思う程の
長い舌を出してハアハア言う。
たまにクンクンないて
助けを求めるけど、
僕は振り返るだけで
腰をかがめたりはしなかった。

神社の石段を登る時も、
一段一段に必死でしがみついて
全身をこわばらせピクピクさせる。
たまに何段も転げ落ちて
暫く動かなくなったりするけど、
僕は立ち止まるだけで
抱き抱えたりはしなかった。

それでも、毎日
散歩に行く合図の口笛を吹くと
喜んで尻尾を振ってしがみついて来る。

その毛玉が今朝は
口笛を吹いても姿を見せない。
どうしたのかと思って小屋の中を覗いた。

毛玉は疲れて冷たくなっていた。
暫く状況が掴めなかったけど、
息をしない毛玉を抱き上げた瞬間、
急に涙が溢れ出して止まらなくなった。

毛玉の堅くなった身体を抱いて
暗くなるまで大声で泣いた。


自由詩 散歩 Copyright 恭二 2003-10-08 17:20:08
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