生死の皮膜
吉岡ペペロ

ユキオからのポカンとしたメールに返信しながら発光するコンビニを通りすぎた
カワバタからはさいきん連絡がない
じぶんが返信しなくなったからだろう
カワバタと別れるといつも、ヨシミはじぶんが空虚になるような感じがした
カワバタになんでも話しをしてしまい、ユキオには話しをしていないことの方が多いような気がした
そのことが世の中へのぼんやりとした違和感をいっそう掻き立てた

あの交差点にさしかかった

今朝のことだ
信号待ちしていたヨシミの視界に鳴きたけった小鳥がものすごい勢いで滑りこんできた
鳴き声が車のフロントガラスに当たってヨシミの前方に飛ばされた
骸を拾おうか迷いながら近づいていったヨシミが叫び声をあげた
カラスが大きなくちばしでそれをやわらかく挟んでさらっていったのだ

ヨシミはこのことをユキオに話してみようと思った
メールを打つのはめんどくさかったから電話してみた

ユキオは広島にいた
出張らしい
ユキオの声を聞くとヨシミは小鳥とカラスの話を一気にまくしたてた
ポカンとしたメールをしていたわりにユキオはしっかりとした声で

それは自然界のいとなみだな、あ、車は自然界?

自然界、かあ、かあかあかあ、

ヨシミがカラスの鳴きまねをするのをユキオも面白がって

かあかあかあかあ、あした会いたいかあかあかあかあ、

あした?広島のあと高松に帰るんじゃないの、

おまえに会いたいな、

いいよ、早退してあげる、

ヨシミは家に着いたことをユキオに告げて電話をきった

靴をぬぎながら玄関の明かりを点けると電球切れで明かりが点滅した
それをヨシミはいま歩いていた会社からの帰り道とかさねていた
いま歩いていた道は会社からの帰り道ではないような気がした






自由詩 生死の皮膜 Copyright 吉岡ペペロ 2010-06-03 08:44:53
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