配る人
Giton

単両の錆びた電車が往き過ぎると
線路際に生えた花は 砂利の間から
頼りない花弁を揺らす
オオイヌノフグリ
セイヨウタンポポ
ヂシバリ
キジムシロ
ほうっておけば埃にまみれて
しまうだろう 人は見向きもしないし
ときどき近くの女の児が小さな
じょうろで水を遣りに来る
時報のチャイムが切れ切れに飛んで来る
   .
線路際の草叢に雨が降る
風が吹く 泥が流れ出す
   .
木々は予感に戦く夜の果て
空の暗い底が紫に映え
明るくなり まだ音は無く
…ああ そこで目を瞑れ…
   .
いつか目を開けば
昼の砂漠 明るい憂鬱に
悲しみの重たさに
塞がれた鹹湖
ワジ 有蹄類の骨
    .
掘り尽くし汲み尽くされて
涸れ果てた白亜の町にも
白い便りをいっぱいに抱えて
あなたはやって来る
   .
こんなになんにも無い
ちょろちょろに禿げた並木の足許に
蹲っているぼくらの前にまで
あなたは近づいてきて
  .
涙がいっぱいに詰まった
白い封筒を
あなたは差し出した
 .


自由詩 配る人 Copyright Giton 2010-06-02 18:59:24
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