ゆるやかに
大覚アキラ

仕事と仕事の間の
エアポケットのような
30分間

中崎町と天六の真ん中あたりの
こじんまりとしたおしゃれなカフェで
居心地の悪さを背負いながら
コーヒーを飲む
午後2時

この街は
昼と夜で
流れている空気が違うので
呼吸の仕方にも
昼と夜で
ちょっとした工夫が必要だ

なのに
この街の昼の空気に慣れていないおれは
コーヒーを飲みながら
むせてしまったりする

よく行ったあのカウンターだけの店も
随分雰囲気が変わって
いまはもう
前を通るだけになってしまった

そもそも
あの人と一緒でなければ
あの店に行く意味もないので
たまにしか足を運ばなくなった
この街のことを
おれは
ゆるやかにわすれていく

あの店の名前も

あの店のバーテンの人懐っこい笑顔も

苦手なアルコールのせいで赤くなった頬も

明かりの消えた人気のないアーケードも

冬の空気で冷え切ったブレスレットの冷たさも

風にかき消える煙草の煙も

繋いだ手の暖かさも

こうやって
ゆるやかにわすれていくのだ

なにもかも
ゆるやかにわすれていくのだ


自由詩 ゆるやかに Copyright 大覚アキラ 2010-06-02 18:52:10
notebook Home 戻る  過去 未来