大好きな詩人を紹介してみます  「西脇順三郎」
非在の虹

「雨」

南風は柔らかい女神をもたらした
青銅をぬらした 噴水をぬらした
ツバメの羽と黄金の毛をぬらした
潮をぬらし 砂をぬらし 魚をぬらした
静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした
この静かな柔らかい女神の行列が
私の舌をぬらした



「雨」という詩です。詩人の名は、西脇順三郎(にしわき じゅんざぶろう)。

西脇順三郎との出会いがどうしても思い出せません。
ただただ、ふっと買ってみただけかもしれないですね。新潮文庫です。
いつ手にいれたのか、思い出せないのですが、中学生か、高校生か・・・・。

自分で表紙絵をかいて、装丁しなおしてあるところをみると、その当時から気に入っていたんですね。
西脇順三郎は英語学者でもありました。だから彼の教科書で勉強したことがある人もいるはずです。
僕も転校先の高校で彼の教科書を使いました。

西脇順三郎は1894年(明治27年)に生まれ、1982年(昭和57年)88歳でなくなりました。
慶応大学を卒業したのちイギリスのオクスフォード大学に留学し、帰朝後は慶応大学ほかいくつかの大学で教鞭をとったのです。
大学教授のかたわら詩作もやっていると思う人もいたようで、学匠詩人ともよばれましたが、学問だけの詩人ではまったくないことは確かです。

彼は日本語では詩は書けないと、英語やラテン語で詩を書きはじめました。
やがて萩原朔太郎の詩を知って、日本語で詩をかく自信ができたといいます。

西脇は、日本語のリズムをこわすことなく自分の詩を書くことはできない、と考えていたようなのです。
そして、萩原朔太郎の作品は故意にリズムをこわしていると感じたようです。
それはぼくにもなんとなくわかるような気がするのです。
彼の詩の魅力は、せせらぎが流れるように、ことばがつづいてゆくと思われると、突如、リズムを乱してポキポキとことばが置かれる、そんなところにもあります。

モダニストと呼ばれ、シュルレアリストとも言われましたが、どちらでもない「詩人」としか呼びようのない詩人でした。

社会人になってしばらく西脇順三郎の詩を紙片に書いて、おまもりとして持っていたことを思いだしました。
こんな作品です。


「宝石の眠り」

永遠の
果てしない野に
夢みる
睡蓮よ
現在に
めざめるな
宝石の限りない
眠りのように



できれば、ここでまた、大好きな詩人を紹介してみます。

(参考文献もろくにそろえないままにこの文章を書いています。まちがいがありましたらご教示いただければ幸甚です)


散文(批評随筆小説等) 大好きな詩人を紹介してみます  「西脇順三郎」 Copyright 非在の虹 2010-05-26 08:51:04
notebook Home