遠来  1.
La Mancha






私の両親は葦舟に乗ってやってきた。
彼らは葦舟の中で私を生み、育てた。
私たちは何も持たなかったが
生きてゆくには十分だった。
足りないものも多かったが
おかげで舟は沈まずにすんだ。
とある岸辺で彼らは降り
私はひとり舟に残った。
彼らは何も残さなかった。
彼らの舟は私の舟となり
私は舳先を沖へと向けた。
空と海、吹く風と波しぶき
時は私を飽きさせなかった。
私は日々、うたを歌って暮らした。
ある日流れてきた鯨の髭は、私に楽器をもたらした。
日は強さを、月は愁いを、
海は激しさと深さを、空は広がりを、
星々は優しさと儚さを私に教えてくれた。
風とともに歌うとき、私の舟は風になった。
星に向かって歌うとき、はかれぬ距離が友となった
……






自由詩 遠来  1. Copyright La Mancha 2010-05-24 00:49:29
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