ひなぎく
月乃助

忘れ去られた 古い校舎
人知れず 
ひな菊が一面咲く
小さな 白い縁取りをした
数知れぬ麦藁帽子
花の絨毯は緑に抱かれ

さやかな風が吹き 過ぎる
もう夏の気配を孕んだ晩春のそれは、
無責任にあるものすべてを震わせたりする
冬のそれは、誰をもしばりつけるのに

もらった手紙を焼きました
一つの想いも残らぬように
あなたに会った必然を考えながら
誰にも信じてもらうこともない
二人が会わされた真理を
思い返しては、

ここでは、
春の陽気の微小な振動に
蜂たちばかりが呼応している
帰る道を確かめながら飛ぶそれは、
羽音ばかりがせわしない

すぐに手をつなぎたがる あなたの
腕の温かさを思い出しては、
ひろびろと花たちの上に横たわりながら
あさましい夢をみる
少しの悔悟に震えたりして

まだ、そばにいるのですね
私の腕時計は、止まったまま
あなたの笑顔ばかり、花の香りに誘われる

安らかな眠りにつけるなら
もうこれ以上、身を焦がす想いに
胸を痛めることもないはずなのに
これからずっと 

解き放たれる刹那

蜂たちに誘われ 白い花の中で、
この身は知らぬ間 恍惚と
光りを遡るように
みだらに昇天していく






自由詩 ひなぎく Copyright 月乃助 2010-05-15 15:09:26
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