遠い眼差し
高梁サトル


いなくなったきみを探していたら
僕は自分を見失ってしまった

砂浜を歩くたどたどしい足元が
早く何処かへ連れて行ってくれないかと
波にさらわれることを望んでいるこころは
宙に浮いたまま地に着くことはなく



他人は皆
悲しみなど早く忘れてしまいなさいと言う
そんなこと何千回何万回も
神経が擦り切れるほど考えてきたことなのに
どうすればいいのかと

薄皮を剥くように忘れてゆく
忘却がヒトの最も優れた能力だというなら
また過ちを繰り返す道理は正しいのだと思う

震える頬や唇や睫毛に
きみが宿っている気がする
幻想は愚かさの象徴だね
頭では分かっているのに
きみが消えない
遠浅の海岸を眺める潤んだ眼差しに
恋に似た感覚を覚えて



誰かを愛したいと願う
それは愛した誰かより強い想いを要する
そして
誰も愛さなくても生きていける現実

凍えて固まったこころを
握り潰して砕いてしまいたい渇望

終えたいんだ
もう
いいだろう

掌に乗せた小鳥を空へと放つ
巡礼の仕度は整っている



わざと安いモーテルに泊まって
誰の侵入も拒んでいる
記憶さえも沈黙に隠して
ウィスキー色したグラスに薬が溶ける

約束したんだ
花を見に行くと
それを独り守っている僕が



誇りを失ってヒトは生きてゆけると思うかい
きみに会いたい
もう一度
それだけだ
言葉を交わしたいわけじゃない

願いはひとつ
それ以外欲したことはない
リピートされる無限カノン

想い過ぎればこころは壊れる
そんなことさえ諦めてゆく

きみが首を縦に振れば
答えは「イエス」だ

微笑んで


自由詩 遠い眼差し Copyright 高梁サトル 2010-05-14 21:15:33
notebook Home 戻る