ホット・ケーキ
空白さん



翌朝いそいそと出て行ったあなたは
スーパーの袋を提げて夕方再度戻ってきた

おやつを作るよなんて突拍子も無いことを
つぶやく彼女がばたばたと何かを始めだす

へらりと笑いながら食卓を作る手には
水溶き小麦粉のような黄色い跳ねが飛んでいた

皿の上には不恰好な
玉子焼きとも何ともつかない塊だけがある

添えられたフォークに容易く千切れたそれは
思ったより味は悪くなく

元から何をするにも鈍くさいあなたが
ホットケーキのつもりと言って笑う




甘すぎる味を口にしたまま
この作り物のように明るい世界に眩暈がした

こんなにも笑うことだけを
自分に残すものを僕は知らない

のろくさく華やかな世界があなたの国だとしたら
僕はそれに似合わないし

あの暗く湿った僕の国にもあなたは似合わない
互いに居場所の無い世界だった



別れた手から甘い匂いがする
いつかの失敗したホットケーキと同じ

粉っぽいぬるさだけを肌に残して













自由詩 ホット・ケーキ Copyright 空白さん 2010-05-14 14:30:06
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