For Me
寒雪



昼間の月はあんなに高く
路上の吐血はあんなに紅く
廃墟のバラはあんなに脆く
朽ち果てた大聖堂で
福音は
悪魔の口から洩れ聞こえる


23時45分発の列車に乗って
窓から零れる闇を見つめる
何者なのかは分かるけれど
何故いるのか分からない


タバコ嫌いのオレの手に
半分まで吸ったアンフォーラ


心の奥を解剖してみる
明日のイメージはモザイクで
昨日の写真は切り刻まれて
流れて落ちる砂時計の中
オレの体が粘土細工みたく
姿を変える


踏みしめた大地を
手に入れるにはどうすればいい?
答える術はない
それでも次の朝
オレはベッドの上で目を覚ます
昇りかけの陽光が
カーテンの隙間から
汚れたオレを貫く


週末に
創造主の元に出向く
ヤツラはオレを見るなり嗚咽を
オレの顔を目がけて
伸ばした手が
定まらない目鼻の位置をすり替える
こんな状態でも
大丈夫だと胸を張れる
自分自身に驚いている


何度聞けば
語られる言葉を理解するのだろう
プレーヤーの上で
傷だらけのアナログ盤が
キリキリと音を立てる


原子核は
10マルクで売りに出された


工場のサイレンが鳴る
そよ風によろめきながら
自分が消えてしまわないよう
コートの襟を立てて
足早に家路に着くのだ



自由詩 For Me Copyright 寒雪 2010-05-13 06:51:57
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