今日の出来事
服部 剛
今日のことを、話そう。
大事なひとに、毎日メールするように。
*
「先ほど、目が覚めました。
カーテンの隙間から
雨上がりの春の陽射しが
小さい日向を、つくっています。」
「先ほど風呂から、あがりました。
今日は久しぶりの休日なので
昼寝をしたり、本を読んだり
一日のんびり、過ごしています。」
「先ほど僕は散歩中に
10年ぶりで故郷に帰った
尼さんと再会して
思わず両手を、包みました。」
「先ほど僕は、受話器を握り
在りし日の作家の妻に電話して
雑誌に僕の詩が載ることや
愛しい君と出逢えたことを、伝えました。」
*
「私は少々せきが出るので
夕方あたりに、受診します。」
「私の叔母が寝たきりなので
今夜は、お見舞いしてきます。」
*
「僕は今から
買い物帰りの母を迎えに、ハンドル握り
その後はひとりのファミレスで
紅茶を飲みつつ頬杖ついて、
今日という日を、味わうでしょう。 」
*
今、僕は人気少ないファミレスで
愛読書を開きながら、ふいに、君を思い出し
心の声で、呟いている。
( 君のかぜが、だんだんよくなりますように・・・ )
( 叔母様の見舞いが、よいひと時になりますように・・・ )
*
今日のことを、話そう。
一見、無慈悲に人波の流れゆく
この街の中で、一握りの
魂の会話ができる誰かと・・・
僕が今こうして、この詩から
「今日の出来事」を
読者のあなたに、語りかけているように