のぞみ64号
nonya


闇の底を疾走しているのではなく
ひたすら潜行しているのだ
と思った

望みは西から東へ

ラブホとパーラーの漁火の間に間に
脂ぎった回遊魚が澱む
安物のサラミのにおいをさせながら
二缶目の安堵&諦めを開ける

隣りの若手の熱帯魚君は
半開きの口からあぶくも吐かずに
アダルトな週刊誌をめくりながら
流行りの音楽で世界を閉じる

助けた亀には逃げられて

また負けてしまったような気がする
おそらくこれで64連敗
竜宮城を次々と通過するうちに
屈辱は285km/hで擦り切れていく

乙姫はおつりを間違えて

絶望なんかしていないよ
僕は深海魚じゃないからね
回遊魚の哀しみなんて所詮
お寿司のサビみたいなものさ

やがて
遥か彼方の海面に
浮かび上がるであろう東京タワーの電飾に
せめて涙ぐめたらいいな
と思った

それが
ささやかな僕の望みなんだ
と思い込みたかった

望みは西から東へ




自由詩 のぞみ64号 Copyright nonya 2010-05-07 20:02:55
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