寂然の果てに帰す / **** '02
小野 一縷





石と夜の間に 硬質な 大気が宿る
焔の中に描かれた 淡い筋 その熱
鏡の水面に 風が揺れる 針のように
黄金の雨に 濡れながら 光る
蝋燭が 泣いて 熱い涙 生命を融かして
藍色の雫が 夜を 生温く 構築してゆく
瞼の上に 茨が 透明に 氷結する
鋭く 落葉は 路面を打つ 古い重力


連弾 和音が 空白を 燃焼する
弱々しく 羽ばたく 煙の 捻れ
飛沫 落明する 雨の 音
また 風と 大気の擦れる 音
光と 温度の 旋律
一滴の 音が 光の波紋を打つ時
透き通る 闇の 距離
広大な鍵穴の 底に
瞳の 複雑な 仕組み
蕾から 涙が 溢れ
蒼い凍土に 突き刺さる


血流は 黒い砂の 重い 軋み
硝子が罅入る 音 その硬度と 高度
眩しさ 眩み 細い 切傷は 銀
暗い 雪原を駆ける 地平線
海面から 吹き上がる 雪
止めどなく 遥か


焼け焦げた 空の穴は 夜が通る 針穴 
吸い込まれる 数々の 季節の 
見えない 拍子 節音 休符
深く 真直ぐ 真直ぐ 切れてゆく
温度の 色彩の 純度を
遡ってゆく この 視線は
季節の係数を 冷たく 静寂の奥に
解き解す 音 になる




自由詩 寂然の果てに帰す / **** '02 Copyright 小野 一縷 2010-05-05 19:43:15
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