なくなった
寒雪



今日
ぼくの戸籍がなくなっていた
市役所に行くと
あなたの戸籍はありませんと
職員が冷たく言い放った
困ったことになった
これでは
引越しも出来ないし
免許も取れない
そもそも戸籍がない
ということは
言い換えれば
国にぼくの存在が
認められていないということ
ぼくは存在することすら
拒否されてしまうのか


知恵のない頭で
色々と思いを巡らしていると
突然
ぼくのお腹が鳴って
空腹であることを主張する
近くのコンビニで買った
サンドイッチをほおばり
晴れた空を見上げてみると
白い雲が
ゆっくりとした足取りで
南の方角へと流れていく


子供の頃
友達とかくれんぼをすると
うまく隠れすぎてしまったのか
ぼくは鬼に見つけられないまま
何時間もその場に息を潜めて
じっとしていた挙句
みんなに忘れ去られて
一人寂しく家路につく
そんなことがよくあった
今の自分も
そんな感じなのかなと
自分を慰めてみる


時間が経つと
疲れてきたのか
眠くなってきた
それと同時に
便意も襲ってきた
戸籍のことは気になるけど
今はトイレに行きたい
戸籍のことは
また明日市役所に行ってから
考えることにしよう


ぼくは足早に
その場を立ち去った
紙切れ一枚のことなど
今のぼくには意味のないことなのだ


自由詩 なくなった Copyright 寒雪 2010-05-02 17:10:35
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