春の冒険
ルナ

やわらかな日差しと
浮かれる街に誘われて
少し冒険に行ってきました
普段電車に乗らない私にとって
キップを買うことから冒険なのです

ペットボトルを開けるのに必要な力加減と
ポテトチップスの袋を開ける慎重さと
車窓からたまたま見えた景色に心踊らせたり
そんな中で私なりに生きています

県外から来た一団らしい
県内の悪態をたたく男
さんざん罵った後
でもね
で始めた一団の婦人の意見に
簡単に自分の意見を捨てて従う姿が
あまりにも滑稽であり
それと同時に哀れでもありました

はしゃぐ女子高生を前に
すまして座る中年男性
離れた席で泣きだした赤ん坊を睨みつける
その顔が醜く
どんな声や音よりも私にはうるさかったです

泣き止まない赤ん坊を必死にあやす女性
自分も泣きそうな顔と声で
ごめんね、ごめんね
を繰り返す
何度も何度も
まるで呪文のように
そういえば
赤ん坊をあやすのに
こんなに必死な
ごめんね
はあまり聞かないな
などと流れる窓の景色をぼんやり見ながら
愛されてるんだな
なんて思ったりもしました

隣の席に座る二人のおばあちゃん
聞くともなしに聞こえてくる会話からは
明らかに初対面だろうと思われるけれど
でもその表情からは
長年の親友のそれを感じさせられ
関係ないのに私まで
ふんわりした気分に包まれたり

様々な人間模様を乗せた
電車が走る
春の風を切って
その窓は
絵画がいくつも繋がったみたいでした

今度は歩いて冒険してみよう
歩く速さでなければ
見落としてしまう物もあると思うの
まだ私には
電車のスピードは速かったみたい
歩く速さで私の宝を見つけて
歩く速さで恋をしよう




自由詩 春の冒険 Copyright ルナ 2010-05-01 07:18:00
notebook Home 戻る