『在沖縄海兵隊グアム全移転』の白黒について
A-29

 『在沖縄海兵隊グアム全移転』という議論(英語訳された記事『官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転』をめぐってhttp://po-m.com/forum/myframe.php?hid=3387)については、その信憑性をめぐって肯定派と否定派とが存在するようだ。ここ数日の間に私がネット検索で見知った範囲で言えば、前者にはジャーナリストの田中宇氏、岩上安身氏、宜野湾市の伊波市長がいて、後者には『週刊オブィエク』(http://obiekt.seesaa.net/article/146978904.html)というブログの主宰者JSF氏がいる。しかし、双方は直接議論しているわけではないし、第三者による議論の発展も見あたらない。

 私はジョン・マクグリンという人が田中氏の『官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転』という記事に寄せたコメントに共感している。マクグリン氏はこう述べている。

 「田中と伊波が突き止めたこの重要な情報をめぐっては、日米の主要なメディアに論争が起き、沖縄・普天間・グアム問題の全体が見直されることが期待される。また、海兵隊グアム転属に関する米側文書は、この記事による暴露を考慮して再吟味される必要があるだろう。」

 しかし今のところ、この問題が世間に注目されるような本格的議論に発展しそうな気配は無いし、「米側文書」の精査が行なわれるということも期待できそうに無い。肯定派と否定派は米軍が公開した2006年9月の「グアム統合軍事開発計画」と、2009年11月の「海外環境影響評価書ドラフト」という二つの同じ文書を読んでいながら、その解釈で対立している。お互いに読む動機が違っているからであろうし、読まれる文書に多義性があるからであろう。たがいにかけ離れた領域で孤立し、むなしく平行線を引いただけである。

 ところで、前出のジョン・マクグリン氏によれば、信頼性と客観性を有する米国連邦議会行政監査局(GAO:General Accountability Office)は、2007年と2008年に実施した在沖米軍グアム転属に関するペンタゴン計画の査定において、次のことを述べているという。すなわち、グアム統合軍事開発計画は"非現実的(notional)"なものであり、米国連邦議会へ一定の報告要件を満たして提出される"基本計画(master plan)"とはかなりかけ離れたものであるというのだ。

 つまり、海兵隊のグアム移転については米国の行政監査局自体が、米軍は鵜呑みにできる資料を公開してはいないと言っているというわけだ。ということは、『在沖縄海兵隊グアム全移転』という議論は現時点で白黒のつく問題ではありえない。この点を論拠に、日本政府は米国に対して普天間移設問題をいくらでも棚上げすることができるだろうし、米国政府および米軍に対しグアム統合軍事開発計画に関するAccountabilityを追求することも可能ではないのか。というより、そうすべきではないのか。


散文(批評随筆小説等) 『在沖縄海兵隊グアム全移転』の白黒について Copyright A-29 2010-05-01 01:11:24
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