靴と嫁 
服部 剛

お風呂上がりで椅子に座る 
目の見えないハルさんが 
ドライヤーで髪を乾かす僕に、言いました。 

「新しい靴もねぇ、 
 毎日々々撫でてやったら 
 だんだん馴染んで来るんだよ・・・」 

「嫁さんもねぇ、 
 毎日々々撫でてやったら
 あぁこのひとがいて、今の私がいるんだなって 
 思う日が、来るんだよ・・・               」 
 
「愛という名の粘土をこねて 
 最初はなかなかままならないが 
 大事に大事に撫でてやったら  
 いつの日か 
 世界にたった一つのハートになるんだよ・・・」 

ハルさんの若い艶ある黒髪を 
ドライヤーで乾かし終えた僕は 

「いい話を、ありがとう」 

と礼を言い、僕の指で 
馴染んだ靴に 
ハルさんの踵をすっぽり、入れて 

傍らで手を引きながら 
風呂上がりの一杯を飲みに 
コーヒーカウンターに 
ゆっくり歩いて、いきました。 








自由詩 靴と嫁  Copyright 服部 剛 2010-04-28 23:41:33
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