山脈
森の猫

生まれ育った
広い平野と
中部を仕切る
大きな 雪をかぶった山脈

初めてその山脈を目にしたとき
なんて 綺麗なのかと思った

だが
次第にその山脈は
あたしのココロに迫り
のしかかって来た

年に3度の決まった 帰省という移動
家族はいっきょに 7人にはね上がる

あたしは
毎日毎日
強い紫外線の中
何回も洗濯機を回し

あふれかえった
洗濯物を干す

ときには
子供を背負って

冬はとくに気分が滅入った
雪の降る中 納屋に干す

乾かない服を
一日中 ストーブの前で
番をする

子供たちがむき出しの
石油ストーブで火傷をしない
ように 目を光らす

ゴウゴウ ゴウゴウ音がして
また 雪が降り出す合図
雷だ

冬の雷というものも
はじめて知った

寒いというより
冷たい 痛い 冬

覆いかぶさる山脈
もう 美しいと思えない

あたしと
あたしの故郷を隔てる
なにものでもなかった

その頃は
疑問も持たず 文句も飲み込んで

ただ ただ 
自分の仕事だと思いこなしたことが

今 走馬灯のように蘇る
辛さを押し殺していた日々
それをあたりまえだとおもわせたもの

なんだろう

あたしは今になって
そのことに気づいてきた

あたしは
いい妻でもない
いい嫁でもない
いい子でもない

破天荒 自由なものだったと

山脈の向こうには
もう 10数年行ってない

長岡を降りると
空気が一変する

北の国の威圧感

観光で訪れるのとはちがう
感触

きっと
山脈の向こうに移り住んで
いたら

あたしは
たぶん
自分を殺していた


自由詩 山脈 Copyright 森の猫 2010-04-26 05:11:41
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