メリーゴーラウンド
アンテ


                  「メリーゴーラウンド」 10


  メリーゴーラウンド


ようくんが死んでしまう夢を
わたし なんど見ただろう
そうやって
ようくんの命を縮めているのかもしれない
って考えると
眠れなくて
一晩じゅう ぼんやりと
窓のそとを眺める癖がついたんだ
たしか
なんで忘れていたんだろう

ドアを抜けた先
遊園地は無人で
遊具はぜんぶ乗り放題だ
わたしとようくんが近づくと
どれもにぎやかに動きだす
楽しみたい気持ちをぐっと抑えて
あちこちのドアを開けて出口を確かめていると
ちぇっ 冷やかしかよ
って感じで
コーヒーカップも急流滑りも止まってしまった
焦るようくんを見ていると
なんだかおかしくて
すこし遊んでいこうよ
って言葉がなんども出かかった

ようくんが死んでしまったあとのことを
何通りも考えた
そんな自分がいやで
でも それは
そう遠くない未来のことだって
前提条件にすると
たいていの物事は
わかりやすくなって
いやなこと
好きなことを
分類して
自分から切り離すことができた

そうやって
とても都合のいい
わたしができあがった

メリーゴーラウンドを見つけて駆け寄る
ようくんも
なにも言わずについてきた
一番きれいな馬を選んでまたがる
にぎやかな音楽がはじまる
軽い振動
回転
振り返ると
ようくんはひとつ後ろの馬に乗って
心配そうにきょろきょろしている
ぐるぐる回るものが好きな理由なんて
どうでもいいよね
馬はゆっくりと上下する
視界がたえず動きつづける
手話は便利だ
どれだけ音楽がにぎやかでも
言葉を伝えられる
ようくん
遊園地
初めて
楽しい?
楽しい
とても

さめたら
本物
遊園地
一緒
行こう

わたしが死んでしまったら
ようくんがどう思うか
なんて考えたことすらなかった
なんで薬を飲まなかったんだって
叱られるかな
ようくんの病気はどうにもならないのに
わたしだけ良くなるなんて
間違ってる
今でもそう思うけど
それが
ようくんをどれだけ傷つけるか
今ならわかる

回転が遅くなって
音楽がやんで
馬が止まる
遊園地の明かりがいっせいに消える
メリーゴーラウンドの
真ん中の円柱の部分に
いつの間にかドアが出現していて
ようくんは馬からおりて
ノブをつかんだ
ドアの輪郭から光があふれる
ここで待っていて
ようくんは確かにそう言った

忘れたくない
ちゃんと謝らなくちゃいけないから

手を振る
ようくんが光に呑み込まれて
見えなくなって
ドアが閉まる
光が消えて
ドアの輪郭も消える
とても静かだ
馬にもたれかかって
目を閉じて
耳をすませる
いつか
ようくんと一緒に
遊園地へ行けるだろうか
そのときまで
わたしはわたしでいられるだろうか


                 連詩「メリーゴーラウンド」 10





自由詩 メリーゴーラウンド Copyright アンテ 2004-10-06 00:40:49
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