paper flighter
mizunomadoka

小学校の紙飛行機ブームのとき、
校庭からすこし離れた水飲み場で、銀杏を見上げて考え込んでいる少年がいた。
風に乗りすぎた最高傑作の機体を枝に引っ掛けてしまったのだ。

少年はカバンから堅めの紙を取りだして別の飛行機を折る。
細くナイフのようなその機体は、
空気抵抗を極力まで減らした弾丸のように飛ぶ形をしている。
それをぶつけて落とそうというのだ。

少年の手から放たれた機体は目的に向かってまっすぐに飛び、
直前の葉群に当たってひっかかった。

少年はもう一度同じ形のものを折る。今度は枝に当たってはね返される。

「これはもう飛行機じゃないね」

落下地点に色白の上級生がかがみ込んでいた。にこりと笑って飛行機をこちらに投げる。
「やあ。飛行機チャンピオン」

上級生の投げた機体はその場で急激に半回転して、彼の足もとに墜落した。
「こんな風にね?」

何がこんな風になのか分からなかった。

少年がとまどっていると、彼は飛行機を拾い上げて少年に手渡した。
そしてランドセルからノートを取りだして破ると紙飛行機を折り始める。

広翼のアローヘッドだった。
昇降舵が見たことのない形をしている。

「真上に投げてロールしてからぶつかるように投げてみて?」
「ひっかかると思うよ」
「あの機体を救えるならいいさ。だろ?」
「わかった」

少年は練習もなく、風が途切れた瞬間に空に投げた。
飛行機はカミソリのように上昇し、きれいな回転で枝の機体に向かって下降してゆく。

「すごい!」
思わず声が出た。指から離れた瞬間には少年にも理解できた。
この機体の方が最高傑作よりも遙かに優れている。

それが彼だった。



自由詩 paper flighter Copyright mizunomadoka 2010-04-22 22:29:54
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