white clover
mizunomadoka

もうずいぶん昔のことだけど、
中学生のとき2つ年上の友人と一緒に下校してた時期があった。
彼は色白で線の細い、ちょっと有名な変わり者だった。

どう変わっていたのかはうまく説明できないけれど
隣にいても数歩離れてるような感じのひとだった。
紙飛行機を作るのがもの凄く上手いのに
飛ばすのは誰よりも下手みたいな、孤高の愛されキャラだった。

彼は歩きながらよく頭をぶつけた。
僕に話しかけながら後ろ向きで歩くからだ。
ぶつけるとしばらく動かなくなって
それから両手をポケットに入れて、こう言う。
「ここ危ないから気をつけなよ?」

その様子がおかしくて、僕はいつもクスクス笑ってた。
彼は自分を隠すのが下手で、格好つけるポイントも間違ってたから。

駅前のロータリーを右に入って
自転車置き場のフェンス沿いに階段を下りると
小さなレストランがある。

白いままごとセットみたいなポーチの看板に
『本日のメニュー♪』のイラストが貼られてるけど
料理の名前も値段も記されていない。

ドアを開けると、かすかな手応えに引かれて
天井に吊されたカウベルが鳴った。

「これどうしたの?」
「新しいのに替えてみたの」

アボンリーみたいな格好をした女の子が
ドアの前に集めた椅子に寝転がって天井を見ている。

「今日は遅かったのね?」
「ちょっと寄り道をしてたんだ」
「はい、これ」

彼は姉のおなかに紙袋を置く。

「なーに?」
「頼まれてたプレゼント」
「春の野原の白詰草だよ」



自由詩 white clover Copyright mizunomadoka 2010-04-22 22:22:37
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