街路光
木立 悟
夕べのにおい
外灯のにおい
壁の裏側に眠る怪物
屋根の向こうにそびえる火を追い
刈り込まれた生け垣の葉をとばす
一筆書きの街から街へ
人のような虹が駆けてゆく
うろおぼえの路を行け
雨はくりかえし告げている
硝子は夜の
夜は硝子の科学の瞳孔
砕けては元にもどる歌
砕けた数だけ
砕けたかたちの世界になる歌
まぶたに光をのせてゆく歌
ころがりつづける玩具がつながり
新しい玩具になってゆく
急がないと見えなくなってしまう
坂の下へと
坂の下へと這い出た怪物の前を
今すぐ 今すぐ横ぎらなければ
誰もいない壁をすぎ
光は異なる光を聴く
ほどけるような響きの行方
おもむくままの視線の向く先
窓から窓へ 路から路へ
歌のように駆けてゆく
虹のように駆けてゆく