ヨガスタジオで
たちばなまこと

一番乗りではなかった
ロッカールームで 常連の中年女性が
油もたんぱく質も無い体を あらわにしている
錆び付いた金属のような 褐色の人
臆病者のこんにちは、は 届くことなく
乾いた音を響かせて落ちる

三ヶ月目のヨガ
今日のレッスンは 新しいインストラクター
緊張の面持ちに こちらの背筋も伸びる
深呼吸
脚を閉じ 骨盤を前に引き 真っ直ぐ立つ
顎の下で指を組み肘は下ろした状態で
軽く吐いて…
吸って…しならせた指と顎を押しあいながら肘を上げ胸を開く
すべての エネルギーを 吸い取るように
吐いて…指を組み戻し肘を閉じながら天を見上げ上体を反らす
口から 嫌なもの 悪いもの 全て吐き出すように
私は嫉妬について考える
今日の先生の豊かな胸
いいなあ…

からだが喜ぶ臨界点で
いくつもポーズをとりながら 呼吸を繰り返しながら
すべてのエネルギーを吸い取り 負を吐き出す
あの黒く痩せすぎた中年女性が ときどき流れを遮る
先生、温度が下がった、ストーブ点けて
先生、違う、次は腹筋
先生…
先生…
インストラクターを 敵意の目で見ている
先生と呼びながらも 敬意など無い
その褐色の人は 他の人とも話をしない
劣等と優越がせめぎ合う目
私は息を深く長く吐きながら彼女の
嫉妬について考える

若さとは
あるひとつの過去を
塗り変えながら伝えてゆく
温故知新
大切なのは詩(ポエム)じゃなくて詩感(ポエジー)ではありませんか?
私はお腹を震わせ息を吐きながら
褐色の彼女が 拾ってくれればと試みている

合掌
ナマステ
インストラクターが言う
至らない点もありましたが、これからもどうぞよろしくお願いします
ヨガのこころ
私は古い書物の一行を思う
詩人よ、若さを持て
私はいつもよりも長く 頭を下げていた


自由詩 ヨガスタジオで Copyright たちばなまこと 2010-04-16 10:54:07
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