斉藤さん
Oz

家の近くの公園は小さな森に隣接している
そこには斉藤さんという木がある
斉藤さんは他の木と違う所があるわけでは無い
ただ僕がその木を特別に斉藤さんと呼んでいるだけだ

斉藤さんは他の木と同じって言ったけど
僕にとっては
全然違う
特徴があるわけじゃないけど
普通に他の木とは形が違うし
普通に他の木とは色が違う
枝振りも違う
葉の並びも違う
匂いも違う
全部違う
普通に

その斉藤さんが
伐採されようとしている
公園拡張のためだ
森の他の木と同じように

斉藤さんは聞こえない声で言う
しょうがないことだ
僕は樹齢何年やら
ハート型の何かを持っている訳では無いのだから

僕は不憫でならなかった
だから
斉藤さんのために
僕は何か出来ないかと思った
そうして僕はやったんだ

コレが石川弘が行動を起こした理由だ
警察による聴取で彼は淡々とこう話したのだった

彼は公園の1つの木から不思議な形の像を掘った
それは高さ30cmほどで
元の木から考えると
とても小さい
彼は夜中の2時〜5時の間
毎日この木を掘っていた
昼間は普通に会社に行き
普通に働いていたそう
同じ職場の人達は口を揃えて
「まさか彼があんな事をしていたなんて」
そう言った

その像は
あるいは4足歩行の動物に見えた
あるいは人が拝んでいるように
あるいは抽象的な物に
ただそこからは
優しさが感じられた
何も説明がつかないのだが
ただ優しさが

石川弘は像を掘り終えてから
警察に出向いた
そしてこう言った

「私は公園近くの森で1つの木に傷を付けました。それはひどい傷で公園全体の景観を乱し、また拡張の計画を著しく妨げる物になるでしょう。そのため私は警察に出向きました。私の話を聞いてください。どうするかはその後決めてください。」

その後
公園の開発計画は予定通り進められた
像が彫られた事は公にはならず
他の木と同様に
伐採された

また
先日
横浜アートカーニバルという
こじんまりした
展覧会が催された
陳列されるアート作品の中に
不思議な形をした像を写した写真があった
そこからは不思議と優しさが感じられたと
閲覧した人々は口を揃えた


散文(批評随筆小説等) 斉藤さん Copyright Oz 2010-04-13 20:13:46
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