怪物
within

ヒエラルキーに隠された怪物たちの居所。それらは唐突に王に君臨する。

彼は決して頂点に立ちたかったわけではない。異形なるもの異質なるものは一人ぼっちで頂点に立つしかなかった。キュービックのなかでむくむくと大きく育ち、親の首を刈って町に出た。いつしか凶暴であることとは関係なく隣人に疎まれた。

日替わりの彼の心は彼自身でも他人のようで、記憶の連なりの間に疑問符があふれかえっていた。口腔の奥にある彼の声帯は、人語を紡がなかった。発する音は周りを退けた。理解不能な戦慄が走った。言葉である前の吠え声だった。彼の内から外へのベクトルだった。彼の歌は何かの予兆だった。零度の予兆だった。

二重映しの輪郭が、まるで本当のことのように思える。かすれたいくつもの線が、ぼんやりとした眼で見れば二本。ぼやけた線は今の彼の心象。重ならない二人の自分が互いに認めない。彼は重ならないことを祈っていた。

干からびた川の底から陸に上がることができなかった魚たちが目を剥いて転がっている。

光は熱を孕み、徐々に水を大気に還元する。農夫たちは井戸を掘った。水と一緒に小さなとかげのような生き物が現れた。それが彼である。暑い夏の旱魃であった。


自由詩 怪物 Copyright within 2010-04-07 12:37:54
notebook Home 戻る