流些の刻 / ****'01
小野 一縷




無色の眼光に崩壊した空は いまだ自転の歯車を回し続ける 
微かに揺れている 渦巻いた日蝕の環に 写影機は 操られている
非具象絵画が 乱雑な閃光に 連写される
既に太陽と月は 暦を稼動させる数種の仕組の 一つずつでしかない
真円の回転が螺旋状に解れる変成は 暦法上に定められていた
短針と長針の関係性から 角度の概念が失われるころ
秒針の尖端から程遠い
針穴で慄いている動力の倦怠は 弛緩を欲し始める
暗闇の中の12音階の11番目は 13個の衛星に 守られている
13番目の月は氷の星
収縮しながら拡散して 光をこぼす星雲の只中に
過去の彼方から飛び込んだ 蒼灰色の燕星の光帯 
軌道上に照らし出された 月の名は 「174123」
その正面 太陽は黒く抉られ 
取り囲む 星々は 和音を溢して 弾かれる 
火花が飛び交う睫毛の隙間 
全ては冷えた煤に覆われ 大気は その屈折率と共に 震えている 
この空間において 光は 色彩を操る技法を失った 


枯れた大木の鍾乳洞に 六つの枯渇音が記された立方体が 凍えながら
幾つも転がり落ちている
鍾乳石より遥かに硬質な その立方体が一つ転がり出して
名のない音が 二三鳴る
灰色に氷結した湖面の上で 踊り子が 回転し始める
変形した爪先と か細い内転筋で 無味無臭の肉体と顔面を 回している 
紅い空の下に透視遠近法を無視して 
一律の高さで連なってゆく 白樺の並木道を
黒く直進してゆく過去への焦点を暈し 浮き出した時点を凝視する 
一つの近視眼的意識技法は 断続的であれ
記憶を脳裏に結晶し 定着させる


幽かに波打っている絹地の波頭に 繰り返し現れる 複雑な
点 線 面 音 味 熱 匂 
柔らかな想い出に似た 胸やけが甘く染み渡る
何であれ 眼前にあるものが海だと 言葉なら言い切れる 
波をうけ 沖へ流されて 
脳が再現以外の表現を 意識に伝えられるのは いつになるだろう
不規則に移ろう進路と方位は 現在と未来を 同時に 複数の回転軸で
ぐらぐらと立体的に 回している


近付かず 引き寄せず 
滾々と現れる事象が 言葉では表せない 色彩の証明を 時間を用いて 綴ってゆく





自由詩 流些の刻 / ****'01 Copyright 小野 一縷 2010-04-06 08:50:27
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