火群
夏嶋 真子

からだの奥から
たらたらと
わたしが滴り落ちていく
産声とともに泣いた日の
わたしの初めの一滴を含んだ雨で
シーツを洗いたい

足跡にそって
てんてんと広がった池を
みじめな老婆の顔で拭く
そのひとしずくごとに
わたしと同じ重さを抱えたわたしがいて
水滴のあちらの老婆は
水滴のこちらのわたしが
さっき食べつくした熟れた枇杷を
下腹部を透かし滾る眼で覗く

発かれた枇杷は飢餓前夜のふるまいで
出口へ
出口へとむかい
わたしを離れた瞬間
澄んでひかりながら滴り落ちる


(星を産むかわりに。)


こちらの老婆は
わたしをたっぷり含んで染まった布を
すすり泣きながら
黒に包み
半透明に包む
それが火葬のルールだから
さっきまでわたしだったものは
別の何かになれずに
化石燃料に火をつける日
燃焼物として燃やされる

水の輪廻に棲むものたちが
赤々と火群に焼かれてゆく
泡立つわたしの意識のそとで


(どこへゆくの
海にもなれずに。)





自由詩 火群 Copyright 夏嶋 真子 2010-04-02 01:14:26縦
notebook Home 戻る