ハッピーエンド
高梁サトル


嫉妬に狂った女が送ってくる
ヒステリックなメール
私が貴方の何かを奪ったのだという
よく分からないのだけれど
だとしたら謝らなくては?

ごめんなさい?
違う、もっと別の
そう、

「貴方が懸念するような行為もこころもありません」
「何もないんです、私」

けれど
貴方にそんな汚い言葉を使わせた
私は責めを負うべきです
罵って罵って
それで気が済むのなら
それは貴方に必要なことです
とても大切なことです

“泥棒猫”って初めて聞いた
私の声に出して読みたい日本語のひとつだった
これはコメディ
ノーフューチャーに酔ったふりした
朝には忘れてしまう
真夜中の三文芝居

怒らないで
余裕なわけじゃない
欠けた器に何を注いでも満たされない
そんな抽象的な言葉伝えても
馬鹿にされてるとしか思えないよね
こんなガラクタ相手にしてる
健気な執着心が愛おしい

大丈夫、
ハッピーエンドは貴方のもの



ある日バスルームに倒れている男を見たとき
頭に浮かんだ言葉は“ゲームオーバー”
ある日ラリって縋り付いて来た女を見たとき
頭に浮かんだ言葉は“ゲームオーバー”
気難しそうな医者に鎮静剤を頼んで病室を出る

一晩中腕枕した手が痺れてる

じん じん
  じん じん

指の先まで血液が流れ始める

とく とく
  とく とく

呼吸に合わせて歩数を進める


(あ、)
(軽い)

(軽い、足)

(なんにもない)
(不思議)

(空が高い)

(吸い込まれそう)
(碧い)


私さ、
貴方も男もあの男もあの女も
死なないって確証があるの
間違いながら一生懸命愛してるから

そおいうの、すき

少し私にわけてくれたんだよね

迷子の子供にキャンディー
あげるみたいに
それが得体の知れない
毒だってよかった

ただ、うれしかった


(
ありがとう
)



 空白



魂を飲み込むくらいの何かを
いつも探してた
品行方正な顔をして

先生、
僕は先生のことを鳴かすの
とても巧かったでしょう
褒めてください
僕は
良い生徒だったでしょう

愛されたくて何でもやった
殺されたくて何でもやった
そんながきんちょの頃

海水は今より辛くて沁みた
夕日は今より紅くて泣いた

傷付くことも
傷付けることも
よく知らずに
それでも確実に
強かった

あの頃


自由詩 ハッピーエンド Copyright 高梁サトル 2010-03-31 21:21:54
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